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『あまがさ』#124【最終話】

 レナ・スウィートレイン、彼女は雨を自在に操る能力『あまがさ』をもつ、金髪碧眼のコーヒージャンキー。

 相方のカイ・シーウインドといろいろな国を旅し、東の国イーストリバーで行方不明だった父親と再会し、世界の平和を守る正義の味方の職業に就いた、10代後半のうら若き乙女である。

 これは、レナが『あまがさ』に出会い、『あまがさ』から旅立つ物語である。

 とあるところとある国を、人食い鳥ピクスに跨がりながら、『あまがさ』で、人を救ったり殺したりしながら、レナ・スウィートレインは忙しい日々を送っていた。

 しかしながらレナには悩みがあった。どんなに頑張っても世界から争い事が無くならない。正義の味方のお仕事が終わらない。

 私のしていることは、結局のところ無駄なんじゃないか。何て私は無力なんだろう。そんな想いに囚われることが暫しあった。

 そんな時はいつも相方のカイ・シーウインドの言葉を思い出す。

「レナには『あまがさ』という能力があって、レナにはやれることがある。レナはやらなければならないと感じて、正義の味方をしている。でも、レナが本当に迷った時は僕のところに来ておくれ。僕が答えを教えてあげるよ。」

 どういう意味なのだろう。レナにはその意図が解りかねていた。

 とてつもない辛い日があった。いつもは強気のレナもへこんで立ち直れないくらいの、そんな日だった。

「ねえ、カイ。世界はどうしてこうもままならないのかしら。あなたは答えを知っているの?教えて。」

 いつになく、しおらしく弱気なレナに、カイ・シーウインドは優しい言葉をかけた。

「僕らは世界のいろいろな国を旅して回って、いろいろな人を見てきた。いろんな人がいた。いい人も悪い人もそうでない人もいろんな人がいた。レナには『あまがさ』という能力があって、その能力でいろいろなことを解決してきた。それは時に良いことだったかもしれないし、悪いことだったかもしれない。それでもレナは一生懸命やってきた。だから……」

 カイはレナの瞳の奥をすっと見つめる。そして――

「もう、がんばらなくていいんだよ。レナ。」

 カイの優しい言葉に、レナの両目に光る涙がこぼれた。

「私は――」

 

 カイが静かに話しを始める。

「僕は自分には、レナのような能力は何も無いと思っていた。でもそうじゃなかったんだ。僕の本当の能力は、能力者の能力を元に戻す能力だったんだよ。海の風の音を聞く能力じゃなくて、海の風の音を聴くと、能力が海に帰る能力だったんだ。」

 カイはレナの両耳に手をあてがう。

「レナ。能力を失うのは怖いかい?」

 レナは優しい笑顔でカイを見つめる。

「怖くないわ。カイが一緒にいてくれるなら。」

 カイは少し恥ずかしそうに照れ笑いしながら、レナの両手を取って、視線を合わせる。

「僕、バイクを購入したんだ。今度海まで一緒に載って行かないかい?」

 レナは頬を染めながら、小さく頷いた。

 季節は春の始まり。太陽暖かく風の穏やかな、まさにバイク日和だった。

 海風の音が聴こえる。あまがさの隣で。

 これからもずっと。ふたり一緒に。

「あまがさ」fin